アイドルマスターは作品により微妙な差異はあるが、基本的にはプロデューサーとアイドルが親密に二人三脚でトップアイドルを目指す物語である。アニメもゲームも基本的にはプロデューサーとアイドルが軸になる。が、そうじゃないまったく無縁のところからアイドルはどう映るのだろうかという話。
アイドルとプロスポーツ選手
今の時期は期待の新人が現れる一方、当然戦力外通告となる選手も現れてくる。
プロスポーツにおける選手間の競争の熾烈さは一般の会社員と比べ物にならないもので、実力が無ければ日の目を見ずに無情に切られる。一方、たとえ一世を風靡した名選手でも加齢には勝てず、衰えが来れば減俸になるし、やがて必ず引退の時期が来る。引退後は指導者、タレントになる者、一般企業に勤める者もいればそうでない者もおり、元プロスポーツ選手の現役引退後の再就職も度々問題になる。
アイドルというプロの世界
さて、『アイドルマスター』は、特に『ラブライブ!』との比較を説明する場合よく野球に例えられる。
どちらもアイドル界のトップを目指す物語であることに変わりは無く、そこにかけるアイドルたちの情熱はどちらも負けず劣らずだが、目指す方向が違う。『ラブライブ!』は野球で言うと夏の甲子園で全国制覇を狙う物語である一方、『アイマス』は様々な境遇や経歴を持った人たちがプロ野球で日本シリーズ制覇を目指す物語である。
部活や趣味ではなく、プロのショービズの世界なので、そこには色々な思惑や情勢、運が絡んでくるし、戦力にならなければ注目すらされない。実力があっても、運悪くそれが発揮されないまま終わることもある。
また、プロの世界に入る以上、その前にプロデューサーによるスカウトやオーディションによって『選ばれる』過程が必ず入ってくる。
多くの素質あるアイドル候補生がオーディションやスカウトによって(まさにシンデレラのそれのように)プロデューサーに迎えに来てもらうのを待ちわびている中、1人のアイドル候補生がプロデューサーにスカウトされ、新たなアイドルとしてデビューするその瞬間、その裏で何十人、何百人もの候補生が、そのまま道半ばにして挫折する事象が必ず発生する。それは就職と同じようなもので、諦めずに続けることで他に拾われる可能性も十分あるが、年齢や素質など様々な要因で不本意にも挫折する人は必ず出るだろう。しかしそこは決して描かれない。アイドルの物語なので、そこを描くとなると別の話になってしまう。
だが最近、そこで「選ばれなかった者たち」「アイドルの道半ばに挫折した者たち」のその後が気になってきた。
シンデレラになれた者、なれなかった者
ここにいたときは、お先真っ暗だと思ってて!将来なんか全然見えなくてっ!もう、不安で不安で しょうがなくてっ!!
だって、若くて可愛い子はどんどん次のステップに上がっていくし!私は、自分の夢にしがみつくしかなくって!
でも、プロデューサーさんに会って、レッスンや宣材撮影や、いろいろプロデュースしてもらって、素敵なステージに立てることになって……。
機会に恵まれない中、努力と忍耐で這い上がった人は、恐らくウサミン*2や島村卯月がその代表例かと思われるが、彼女らは「たまたまその場にプロデューサーがやってきた」「たまたまシンデレラプロジェクトの欠員が出た」からデビューできたから実は恵まれている方で、その裏では数え切れないほどの挫折した屍の山が積み上がっている。
ラ!は高校野球、im@sはプロ野球に例えられるが、プロである以上一度も日の目を見ぬまま消えていったり、戦力外となって表舞台から去る人達が多いはず、でも決して描かれない。我々の知っている華やかなアイドルに決して近づくことができないまま遠くで「その後の生き方」を模索する人達の物語を見たい
— 大槻ずんP リスアニ3日目 (@ohtsuki_zunko) 2017年11月27日
島村卯月は養成所で一緒に居た他のレッスン生がデビューしたり、辞めていく中最後まで残っていて、結果的に武内Pがその実力と素質に気が付き、「シンデレラプロジェクトの欠員が出た」と拾った。
一方、アイドルへの道を諦め、辞めていったレッスン生はその後どこで何をしているのだろう?
まだ10代で学校生活の合間にやっていただけならそのまま学校生活を続けるだけだが、もしも芸能界への道に全力を捧げる覚悟で、退路を断ってたら……?*3
ウサミンは地下アイドル時代にメイド喫茶で働き、室外機の横で日々発声練習をしていたが、恐らくウサミンと同時期、あるいは過去にも、同じ場所で働いていた従業員も同じようなことをしていたに違いない。次のステップを見つけたり、結婚するなどで辞めたならまだしも、何度失敗しても諦めずトライし続けたが、様々な事情で夢が叶わず辞めた人も多いだろう。彼女らはその後何をしているのだろうか……?
シンデレラになれなかった者のその先の模索が見たい
シンデレラプロジェクトのオーディションで、島村卯月の隣でオーディションを受けて落ちた人は、一生我々の目の前に出て来ることは無い。我々プロデューサーとアイドルが協力してトップを目指す過程でそこは必要無いからだ。
後に島村卯月はテレビにライブに活躍し、将来的には最高の栄誉である『第5代目シンデレラガール』の称号を勝ち取る。*4そんな島村卯月を見て、何を思い、何を感じるのだろうか。プロデューサーたちが総選挙やボイスの話題でもちきりになる中、まだ声がついていないアイドルやモバマス韓国組のさらにその陰にいる、スカウトされなかったりオーディションで採用されず、夢半ばにして力尽きた、アイマス世界で決して描かれることの無い人たちは、ついこの間まで同じ選考の場に居て、後に輝く彼女たちを見て何を思い、どう生きていくのか。
俺はな、まだ声がついてないアイドルもそうだけど、さらにその影にいるスカウトされなかったりオーディションに落ちた、アイドルにすらなれなかった、アイドルを望んだものの夢叶わず今後絶対にアイマス世界に出てくることの無い幾多の人たちの生き様を見たいんですよ
— 大槻ずんP リスアニ3日目 (@ohtsuki_zunko) 2017年11月27日
年齢的に崖っぷちで、そのオーディションに最後の望みを賭けていた人もいるかもしれない。その夢が潰えた時にどのように折り合いをつけ、その後の人生の糧にするのだろうか。
テレビやライブで活躍する彼女たちは、我々プロデューサーから見たらすぐ側にいる相棒だが、『その他の人々』から見れば、憧れの的である芸能人であり、透明で見えない壁に阻まれた決して近づけない神聖な存在でもある。
挫折した人が、ふとテレビで笑顔を振りまく彼女を見た時、何を感じるのだろう。
羨んだり、尊敬の眼差しで見るのは勿論、人間なので恨みや嫉妬、怒り、後悔の感情もあるだろう。
そういった感情にどう折り合いをつけ、自分のこの後の人生に活かすのだろう。
アイドルを諦めた者のその葛藤と模索の結果を描いた物語があれば、見てみたい。そこでは我々の知っているアイドルは出て来ないか、出てきても当事者にとっては遠くで輝く他人でしかない。
ガンダムのスピンオフとかでありがちな「一年戦争で誰かが何かしてるのを描いているが、遠くの地ではガンダムがザクを切り刻んでて『ジャブローに連邦軍のすごいMSが出たらしいぞ!』みたいに作中で曖昧に言及される」的な描写が大好きなので、「アイドルが1人も出てこないアイマス」は見てみたい。
— 大槻ずんP リスアニ3日目 (@ohtsuki_zunko) 2017年11月29日
書くのにかかった期間: 2日間
文章量: 3500文字ぐらい